September 12, 2022

「I never dreamed of success, I worked for it(成功を夢見たことはありません。 成功に向けて努力したのです)」。これは、まだ女性が働くことすら珍しかった時代にブランドを創業したエスティ ローダー夫人の言葉だ。あらゆる人の力、そして自分自身の力を誰よりも信じ動き続けた彼女は、誰もが持つ無限の可能性を信じることの大切さを伝えてきた。そんなメッセージを広く届けるため、エスティ ローダーではこの夏、「MY OWN HERO, 明日はもっとなりたい私へ」というキャンペーンを展開している。

では、実際に自らの可能性を広げている人々の内側には、どのような思いや信念があるのだろう?Discoverでは、自らの手で未来を切り開いている人々の7つの言葉とエピソードから「明日、もっとなりたい私」を叶えるためのヒントを探る。

今回話を伺ったのは、同性愛者であることを公表している僧侶であり、メイクアップアーティストや性的マイノリティーである自らの体験を踏まえ、啓発活動を行う活動家としても活躍する西村宏堂さん。2021年には『TIME』誌の選ぶ「ネクストジェネレーションリーダー」にも選ばれている。

「ハイヒールを履いた僧侶」という自らの存在を通し、あらゆるステレオタイプに疑問を投げかける西村さんに、人生の転機と変化し続けるためのモチベーションを訊いた。

 

1. 私は今のままで認められるんだ。

ー 宏堂さんは著書『正々堂々』のなかで、10代のころの葛藤について語られていました。そうした葛藤を超えられるようになったきっかけについて教えてください。

小さいときはお姫様ごっこが大好きでした。風呂敷を頭に巻いて、母のワンピースを着て、くるくる踊るんです。幼稚園まではそれで良かったけれど、小学校に入ると「西村くん」と呼ばれるようになって、心も男性のように扱われてしまっているなぁって悲しい気持ちになったのを覚えています。『セーラームーン』が好きだったり、「たまごっち」の絵を描いたりすることも、だんだん周りから歓迎されなくなりました。だから、お昼休みは一人でいることが多かったです。自分は楽しい人間だし、みんなと仲良くしたいのになんでできないんだろう。なんで私はこんなに頑張っているのに一人なんだろうと、情けなく思いました。

そこから自分を救ってくれたものはたくさんあって、ひとつはゲイコミュニティのウェブサイトです。そこで世界中のLGBTQのティーンエイジャーたちとつながって、一人じゃないんだって思えました。もうひとつは、海外留学をしたときに同じような子たちと出会って、ゲイクラブに行ったり一緒にメークをしたりしたこと。その子たちの親や仲間が、自分を受け入れて認めてくれたんですよね。そこで「私は今のままで認められるんだ」ってことがわかったんです。その後パーソンズ美術大学に行ったり、アメリカのさまざまなリーダーを知ったりするうちに、LGBTQ+もリーダーにもなれるんだということを知りました。小さいころ、好きなテレビ番組で同性愛者が悪役として描かれているのを見て不安を感じていたのですが、そうしたリーダーたちを見て自分も変わろうと思えたんです。

幼いころの西村さん。
幼いころの西村さん。

 

2. 500万人が左に歩いても、私は右に歩ける。

ー 認めてくれる人たちやロールモデルとの出会いが大きなきっかけになったのですね。行動を起こしたり、変化したりするのは時に勇気がいることだと思うのですが、宏堂さんはどうでしたか?

私は周りの人がダメと言っているからダメだと思う人間ではなくて、自分が正しいと思うことに関しては、ちょっと手が震えたりしながらも進んでいっちゃうんですよね。例えば、500万人が「左」って言われて左に歩いていても、違うと思ったら一人だけ右に歩けるんです。それは自分の好きなところでもあります。もちろん、海外に行ったり、メークをしてヒールを履いて外に出たりすることは怖かったです。ニューヨークで小さい男の子に石を投げられたこともありました。でも、私は誰かに迷惑をかけることはしていないし、「石なんて投げたって無駄よ」って。

日本で男性の体に生まれながらメークをしてハイヒールを履いて歩いている人って、ほとんど見ませんよね。でも私がメークをしてハイヒールを履いて外を歩けば、私とすれ違う人はみんな1度は目にしたことになる。そうやって「見たことがある」とか「自分もそうなれる」と思ってもらうことで、その人たちの人生を変えられます。みんなのためにやっているという気持ちがあるので勇気を出しやすいです。

 

3. 自分しか発信できないメッセージ。

ー 宏堂さんはメークアップの道に進まれたあとに、仏教の修行に入られています。著書ではご自身のなかに仏教に対する偏見もあったとも書かれていましたが、なぜ宗教と向き合うようになったのでしょう?

最初は「南無阿弥陀仏を唱えたら極楽に行ける」なんて合理的な内容じゃないと思っていました。両親にお寺を継げと言われたことはありませんが、ほかの人からは私が伝統的なお坊さんの道を歩むと決めつけるようなことも言われて、それが嫌で反発していたんですよね。そういうプレッシャーがなければ、仏教について反発することもなかったと思うので。でも、パーソンズで色々な国の学生さんたちと競い合うなかで、自分が世界のステージで活躍するためには、自分しか発信できないメッセージや表現がないと輝けないということに気づいたんです。だったら、仏教のお寺に生まれた自分はどういうふうに成長できるんだろうと考えました。同性愛者でお坊さんってどういう体験ができるのか、どういう学びがあるのかを知りたくて、進化するために仏門をくぐりました。

 

4. 生まれ持ったものを生かし、表現することがアート。

ー ご自身のアイデンティティを外ではなく、自らのルーツの中に求められたのですね。

そうですね。英語をペラペラに話したいと思ってもネイティブの人にはかなわない。外見に典型的な美しさを求めても、生まれつきの体は変えられない。そう考えると、自分のストーリーやアイデンティティを知ったうえで、心に深く染み込んでいくようなアプローチをとる必要があったんです。私は日本語が話せて、親がお坊さんで修行に行きやすい。海外ではつつましやかなところや真面目なところ、おしゃれなところが評価される。だったら、そういうところをもっと追求すればいいところを伸ばせるかなって。

ー 「典型的な美しさ」とおっしゃっていましたが、日本人だからこそのコンプレックスはありましたか?

アメリカではあまり対等に扱われてなかったように感じます。育ってきた文化も違うし、英語もネイティブではないので。そこに引け目を感じたことはありました。容姿でも、モデル体型でないことや目が小さいことに悩むのは、自分が日本人だからだと考えたこともありました。本当はそうじゃないのに。でも、メークチームとしてミス・ユニバースの世界大会に行ったとき、必ずしも青い目で金髪で背の高い人が勝つわけじゃないということに気づきました。本当に美しい人たちは、私のことを「私って可能性があるんだ」「ここで必要とされているんだ」と思わせてくれる人たちで、そういう人が心に残ったんですね。自分が生まれ持ったものを生かしてどう表現するかがアートで、そこに体型や年齢は関係ありません。内面で他の人を美しい気持ちにさせることは、誰にでもできることだと思っています。だからこそ、それをうまくやっている人は美しい。そういう人をお手本にすることで、自分が何かに劣っていると思わなくなりました。

「ミス・ユニバース2019」の世界大会で、南アフリカ代表で優勝者のゾジビニ・ツンジさんに
メークを施す西村さん。

 

5. 宗教って人を制限するためにあるの?

ー 実際に仏教の修行を始められてから、仏教に対するイメージはどう変わりましたか?

ふたつあります。ひとつは、ジェンダーや性的指向、人種、性別にかかわらず、全ての人が貴重な存在で平等に扱われますよ、と言っていること。これは私が想像していなかったことでした。仏教の教えは全ての人を肯定してくれる内容だったんです。もうひとつは、仏教の厳しいイメージがひとつの側面でしかないことです。仏教は質素で慎ましく、無欲な生き方を推奨していると思っていたのですが、本当はもっといろいろなことを言っていて。例えば、観音菩薩が冠をつけて煌びやかな格好をして「気高い教えには気高い装いが必要」と言っています。「欲をなくしましょう」というのは「性別を男性と女性に分けましょう」というのと同じで、物事をシンプルにしてしまったものだと思うんです。だから、自分らしく同性愛者でオシャレをすることを許さないと思っていた仏教が、「いいよ、いいよ」と言ってくれていたことが学びでした。

いま、世界では70以上の国で同性愛が違法とされていますが、それは宗教的・文化的な価値観からそう決められていることが多いんです。でも、私は本当に宗教がそう言っているの?宗教って人を制限するためにあるの?だったらないほうがいいんじゃないの?と思うんです。私は宗教は人を制限するためではなく、制限をこえて生きていけるよう助けになるものなのだと気づいてほしいんです。宗教に関する思い込みや先入観を刺激して揺さぶって、宗教がなんのためにあるのか、何か違う理由のために宗教が利用されていないか、疑ってほしいと思っています。

 

6. バトルで出た「アク」を浄化する。

ー 挑戦や変化を続けるために心がけていることや、続けている心のケアはありますか?

発信することだけでなく、自分のインスピレーションを得るための時間も必要だと思うので、戦略的に休んだり、自分にストレスがかからない時間の使い方をしたりっていうことを大事にしています。それから、自分の正直な気持ちに目を向けること。「本当はこう思っているんだよね」みたいなことをノートに書いて、バトルで出た「アク」をしっかりすくって浄化していくようにしています。

 

7. 成長マニアなんです。

ー 最後に、これからの挑戦について聞かせてください。

私はメーク アップ アーティストや僧侶の枠にとらわれず、言葉とアートを通して社会から課される期待から人を自由にしていく活動をしていきたいなと思っています。例えば仏教の言葉をシェアしたり、講演会を通してメッセージを伝えたり、本を出したり、ファッションとかメークで人に見てもらったり。例えば、いまはサル痘が同性愛者の中だけで流行るものというふうに勘違いされがちですが、そうではなく誰でも感染する可能性があるよ、同性愛者の病気じゃないよ、というふうに思い込みを解き放っていく活動もしたいと思っています。

毎日変わらないのが幸せという人もいますが、私はとにかく変わっていくのが楽しいっていう価値観を持っています。私にとって変化は生きることなんです。成長マニアなんです、私。英語勉強したいとか、海外に行ってみたいとか、もっと多くの人にメッセージを届けたいとか、もっとおしゃれにしたいとか。そういうことを大事にしているし、そこが自分が好きなところです。

 

西村宏堂
1989年東京生まれ。ニューヨークのパーゾンズ美術大学(Parsons School of Design)に留学。卒業後ニューヨークでメイクアップアーティストのアシスタントとして経験を積み、独立。日本語、英語、スペイン語を操り、ミス・ユニバース世界大会やニューヨークファッションウィーク、ハリウッドの著名人などにメイクを行うなど、世界的に高い評価を得る。2015年に浄土宗の僧侶となる。その後、メイクの指導法を習得するため、ロサンゼルスのヘアメイク専門学校メイクアップ・デザイナリー(Makeup Designory)で学び、卒業。メイクアップアーティストとして日本やアメリカなど、様々な国で活動する。性的マイノリティーである自らの体験を踏まえ、啓発活動も行う。メイクアップアーティストであり、僧侶であり、同性愛者でもある独自の視点で「性別も人種も関係なく皆平等」というメッセージを発信。ニューヨーク国連本部UNFPA(国連人口基金)、イェール大学、スタンフォード大学、増上寺などで講演したほか、LGBTQフレンドリーメークセミナーの開催や、仏教の平等思想を示すレインボーステッカーを全日本仏教会と共に作成するなど、活動は多岐にわたる。NHK、米CNN、英BBCをはじめとする国内外のメディアに取り上げられ、Netflix番組「Queer Eye」にも出演。2021年にはTIME誌「Next Generation Leaders」に選出された。2020年に日本語の著書『正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ』、2022年に英語の”This MonkWears Heels”を出版。ドイツ語にも翻訳され、さらにフランス語、イタリア語、スペイン語、エストニア語でも出版予定。

 

<衣装>
セットアップ:Yuji Ide
左手指輪・バングル・ピアス:SARARTH
右手人差し指指輪:SARARTH
右手薬指指輪:本人私物

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